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平成22(2010)年3月のコラム一覧へ戻る

民主主義を因数分解する

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.民主政は、かつてチャーチルが、「最悪の制度である、ただしこれまで存在した他の全ての制度を除いて」、と逆説的に述べたように、いろいろと面倒くさいものですが、結局は、我々はこれに依るしかなさそうです。

2.その民主政が21世紀にも生き延び、活躍することを積極的に主張するのが、フィリップ・レズニックの「二十一世紀の民主政」(1997年)(中谷義和訳・御茶ノ水書房・1998年)です。

ただし、そのためには、民主主義の契機を、さらに三つに分けて、それぞれの調和を図らなければならない、と説きます。その三つとは、イソノミア、イセゴリア、イソモイリアです。いずれも、古代ギリシャで使われた民主政に関わる言葉です。イソノミアは、個人が政治的に平等に扱われることを、イセゴリアは、個人に平等に政治的発言を認めることを、そしてイソモイリアは、個人の経済的平等を言います。そして、世界的な民主政を実現する方策を考えるべきことを訴えます。

このように民主主義を因数分解して考えることのメリットは、それが国家や各種団体のためか、それとも国民個人一人ひとりのためかどうかを判断する際の、思考の補助線となることにあります。こうして、民主主義を標榜するある制度なりある政策なりについて、それが、国民各層の誰にどのように利益になるのかも明らかになります。

3.日本の読者は、レズニックに教えられる数十年も前に、ギリシャ哲学の重鎮田中美知太郎が同様の指摘をしていたことを、そしてそれを活かせなかったことを恥じるべきでしょう。

田中は、通常、民主政と表現されるデモクラシーとは、区(デモス)に住む者による政治を意味し、衆愚政治という意味で、批判の対象とされることもあった、として、イソノミア、イセゴリア、イソモイリアに分解して呼ばれることを、当の古代ギリシャ人も望んだであろう、と言います(「ソフィスト」講談社学術文庫・昭和51年)。

4.レズニックの本は、具体的な政治制度についても触れていますが、日本についての言及は多くはありません。

しかし、彼が、今、同書の改訂版を出すとしたら、必ず、日本の裁判員制度を取り上げ、その意義について熱く語るはずです。一般の国民が、犯罪の成否について判断するだけではなく、場合によっては死刑まで含め量刑についても考慮すること、その直接民主政としての究極の仕組みが、現在有する世界的な意味について。現代におけるイセゴリアの一つの重要な例として。

裁判員裁判は、平成21年5月に始まりましたが、その三年後に成果を検証して見直すことになっています。

その際、我々が、民主政を、どれだけ自分のものにできたかが、問われ、評価されます。同時に、最高裁がそれに協力的であったのか、それとも単なる抵抗勢力であったのか、についても審判がくだされます。

なにしろ、裁判員には守秘義務が課せられており、その発言を集約しているのは、「アンケート」と称して集めたものをもっている最高裁だけなのですから。

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