2025.04.18

大塚 嘉一

新人弁護士諸君! -「死刑廃止」、「憲法9条を守れ」、に反対でも社会に貢献する途はある

弁護士 大塚嘉一(おおつかよしかず)

1.司法試験に合格し、修習を経て、この春、弁護士会に登録した皆さん、おめでとうございます。期待に胸を膨らせていることと思います。同時に不安もあるかな。

その不安の一つに、どうして弁護士会は死刑に反対なんだろう、憲法9条を守れと主張するんだろう、というものがある方。本当は、死刑も必要だと思うんだが、軍備も必要じゃないのかな、と思っているあなた。その直感は、正しい。死刑制度にも必要な理由がある、現代日本には相当の軍備が必要である、私はそう考えます。つまり強制加入団体である弁護士会が、反対の会員がいるにも拘わらず、そのような主張を世間に向けて発することは間違いであると、私は信じます。

2.死刑制度については、近時、進化生物学から重要な貢献がありました。

進化生物学の知見によれば、利他的な遺伝子が承継されるために、そうでない個体にたいする制裁が重要な意味をもっていることが明らかにされています。

自然主義的誤謬(存在論から当為論を導いてはならない)に留意しながら、理論を組み立てるのは楽しい作業だと思います。

井田良著「死刑制度と刑罰理論-死刑はなぜ問題なのか」(2022年)が評判ですが、死刑制度存廃の対立を解消しようとするあまり、死刑制度の本質につていの考察がお粗末すぎて残念です。考慮するべき学者として、フォイエルバッハの名が挙がるのですが、19世紀の人ではないですか。

3.現代日本において、憲法9条を守れ、と主張するのは、〇〇か○○○○か、またはその合併症であると、私は思います。

米ソの冷戦時代には、世界の行方を決するのは両国であり、日本が何をしようが、何を言おうが、大勢に影響はありませんでした。しかし、冷戦終結後の現在、核を所有する国が複数存在し、アメリカを頼りにすることができなくなった現在、日本がどのような意見を持ち、どのような備えをするかは、正解平和を実現するために、重要な条件となっています。日本は、人類に対して、平和を実現するための責任をおっているのです。

そのような時代に、一国平和主義は、人類に対する裏切りです。

実現可能性はさておき、理想論を掲げることに意義がある、といった時代はとうに過ぎ去っています。

平和主義者の誤りは、他に考慮するべき条件があるにも関わらず、それを無視して議論することにあります(ヘア「道徳的に考えること」(翻訳1994年)、R・M・Hare   MORAL THNNKINNG 1981)。

4.トランプ大統領が、アメリカのみならず、世界中で、法の支配を破壊しています。彼個人の問題もありますが、もっと社会全体の深い背景がありそうです。アメリカの反知性主義(anti・intellectualism)がそれです。グローバリズムへの対応を間違い、多量のプアーホワイトを生みだしたことが直接の原因です。

5.このような時代に、弁護士会が分裂していてどうするんですか。今現在のトランプの攻撃をかわすこと、ができますか。仮に日本において彼のような独裁者が現れたとき、我々法曹は、協働して戦えますか。

弁護士会が、会として、死刑廃止や、憲法9条に関して護憲活動をするのは間違いである。

私は、弁護士会の名ではなく、有志として、あるいは百歩譲って委員会としての意見表明や行動をすることを提案します。

弁護士会の分裂を阻止し、法の実現のために弁護士、ひいては法曹の連帯を強化することが必要です。個々の弁護士は、その信条に従って、各自がやるべきことをやるのです。

目的は、法の支配の維持、発展です。