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平成21(2009)年10月のコラム一覧へ戻る

亀井静香大臣、それは「良い談合」ですか?

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.亀井静香金融・郵政改革担当国務大臣が、かねてからの「談合にもいい談合がある」との持論を、公正取引委員会の委員長にぶつけたところ、「談合はだめです」と撥ね付けられて、平行線に終わったようです。

さらにこのほど、亀井大臣は、日本郵政の新しい社長を指名しました。新社長は、「入札」では決まらなかったようです。

私は、弁護士として、5、6年前に、ある談合事件を担当し、日本の談合の奥深さを知りました。

2.ある日、弁護士会の重鎮の先生から、弁護団に入らないか、とお声がかかり、二つ返事で加えていただきました。相手は、公正取引委員会です。

私の他にも、中堅の先生方、新進気鋭の先生方が集まりました。理屈にうるさそうな者、情報収集が得意そうな者、場を和ませそうな者など多士済々の弁護団ができました。(私はどれでしょう?)さながら、黒澤明監督の「七人の侍」の弁護士版の趣き、と言ったら言い過ぎでしょうか。

消費者問題や民暴事件などのように、会として弁護団を結成することもありますが、それとは別に本件のように有志で弁護団を組むこともあります。弁護士は、相手の弁護士の活動を通じて他の弁護士の仕事のやり方を知ることが多いのですが、味方としてその仕事ぶりを観察する機会は、それほど多くはありません。

本件でも、法律の勉強のみならず、資料の評価、役所との交渉のやり方、依頼者に対する対応の仕方などなど、とても勉強になりました。

そして、談合そのものについても考えさせられました。

3.公共事業等の入札における談合は、市場の健全な競争を阻害し、入札業者に対する不公平、税金の浪費などの問題を生じさせます。日本の場合、入札に、地元企業の育成など、別の観点が考慮されることが特に問題です。

亀井大臣は、大企業が独占するのではなく、企業が仕事を分け合うことをもって、いい談合と言いたいようです。しかし、それをそのまま認めることは、国家の中に、ムラ社会のような中間団体を認めることにつながりかねません。法の支配の意味を熟考する必要があります。

行政による入札は、行政サービスとの観点から、環境、福祉、男女共同参加、公正労働などの社会的価値を公表し、盛り込み、オープンに進めるべきであるという武藤博己の主張(「入札改革」岩波新書)は、魅力的です。企業のみならず、国民の責任感をも育成し、ともに生きるという新しい協調の場を準備することにも結びつく、と考えられるからです。

4.亀井大臣は、これまでも、警察官僚出身でありながら、冤罪のおそれがあるから死刑は廃止すべきであるとか、国家の緊急事態でもないのに、モラトリアムを実施すべきだとか、裏があるに違いないと勘繰らざるを得ないような発言を繰り返してきました。

かつて文化人類学者の山口昌男は、トリックスター論を展開し、一世を風靡しました。すなわち、それは、辺境の地から飛び出してきて、中央の既成の価値観をひっくり返し、ひっくり返ししては楽しんでいる道化です。私は、同大臣は、そのトリックスターではないかと睨んでいます。

しかし亀井大臣は、もはや周辺にはなく、権力の中心にあるのですから、いつまでもトリックスターではいられないはずです。後始末は参謀に任せて、トリックスターで居続けるのか、それとも権力者としての自覚を示すのか、そろそろ正念場ではないでしょうか。

我々法治国家の国民の目を釘付けにする大臣は、けだし稀代の役者と言うべきでしょう。

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