2025.07.31

大塚 嘉一

相続とは故人の人生を完成させること

弁護士 大塚嘉一(おおつかよしかず)

1.相続とは、故人(被相続人と言います)の死を契機として発生する一定の親族による財産的権利義務の承継を言います。 

ともすれば、相続人の間での被相続人の残した財産(遺産)の分割に、目が行きがちです。親族間で醜い争いが続くと、「争族」などと揶揄されることもあります。しかし、相続には、別の顔があります。故人の思い、生き様、社会的活動等の総決算という一面があります。

2.相続の中心は、財産の承継です。同時に、故人の興した文化的事業や営利事業の維持、発展を担う、などの個々の財産に留まらない包括的な財産の承継、政治家などの社会的地位を譲り受けるなどの社会的名声、信用の承継などがありますが、いずれも財産の承継が基礎にあります。

個人は、間違いなく、人生を終える時を迎えるわけですが、故人の未完の数々の事業や役割を、どのように社会に残すか、残された者たちがどう受け止めるか問題となります。

3.まずは、被相続人の個人的な思い、意思をどのように実現するか。

生前に行われるものとして、「遺言」があります。一般には「ゆいごん」と言われますが、法律家仲間では、「いごん」と言い慣わされています。

英米法のように、基本的に遺言での処分を自由に認める法制があります。これに対しては、法定相続人に遺留分などの固有の権利を認める法制があります。遺留分とは、被相続人の一定の親族に留保された相続財産の一定の割合です。遺留分が認められるのは、相続には、故人と親族の生前の縦や横の協力関係の清算という意味があるからです。

日本の民法は、基本的に遺言の自由を一定の範囲で認め、同時に遺留分として法定相続人を保護するという、他の法律と同様に折衷的な構造となっています。

例えば、被相続人が事業を興し、その事業の維持、発展を願うとします。その思いを実現する一つの方法として、相応しい者に事業の基礎を譲る旨を遺言書に記して残します。ここでのポイントは、既述のとおり、他の相続人の遺留分に留意することです。具体的には、同時に遺留分相当額を与えておくことで、事業の承継に影響がでないようにすることができます。平成30年の改正民法で、遺留分権利者の権利を金銭債権としたことは、円滑な事業承継に資するものです。

4.遺産分割は、相続人間で協議のうえ、実現することができます。遺言書があっても、相続人や受遺者ら全員の合意があれば、法定相続分と違う分割も可能です。任意の遺産分割協議が成立しないときは、遺産分割調停となります。調停は、裁判所の主導のもと、相続人らの互譲により、遺産分割を実現しようとするものです。調停で決着がつかないときは、別に訴訟となる場合もありますが、多くは審判といって、裁判官が決めることができます。

かつては、遺産分割は、多くは調停で決着がつきました。不満であっても、裁判官に決められるよりはましだと考えるからでしょう。しかし、最近は、調停でまとまらず、審判に持ち込まれるケースが増えています。個人主義の発露(?)、でしょうか。

その際、裁判官が依拠する価値観として、被相続人の生前の思い、活躍などなどを考慮にいれることができます。安易にただ共有とするのでは、問題の先送りにすぎないからです。

5.いずれにしろ、相続を、単に遺産の分捕りとしてではなく、故人の生前の思いや希望、未完の社会的活動を実現するものと意識することは、必要なことであり、大事なことなのではないでしょうか。我々は、誰もが、社会的存在であり、いずれ死を迎え、「相続」されるのですから。相続を契機に、残された者たちがいっそうその絆を強めるという場面もありえます。

全ての生命が、40数億年前に地上に生じ、それから生命の糸をつないできた、という事実に驚嘆し、畏敬の念をいだきながら、「相続」を考えることも時にはいい、というと話が飛躍しすぎですか。

相続とは、故人の人生を完成させること。その思いを持って、「良い相続」、「美しい相続」をしたいものです。