2016.08.01

大塚 嘉一

普遍への偏愛と個への固執と―小島寛之「算数の発想 人間関係から宇宙の謎まで」を読む

1.子供の中学受験を考えているお父さん、お母さんの悩みの一つに、算数をどう教えたらよいか、というのがあると思います。

つるかめ算や植木算など、小学校で教わる算数は、中学に入ってから学ぶ方程式で、統一的に簡単に早く解けてしまいます。そのような算数を、どこまで教えるか。

ちょっと覗いた方ならお分かりのように、中学受験の算数は、子供が学校で習う算数とは、かけ離れていて、もはや別物です。しかも年々難化しています。

2.この件でも、私の癖が発揮されてしまいました。関係する本を収集するように読みこみました。相当数の本を買いこみ、自分でも問題を、現在進行形で、解いています。

偏差値の高い中学校に合格するための必要悪だと割り切ってしまうと、気は楽です。

しかし、子供たちの大事な時間を、そのようなことに使ってほしくない。

私は、算数の勉強の中に、将来、数学でも使うことになる概念や、考え方などを重視し、子供たちの今後につながる勉強をしてもらいたいと願っています。そのうちの重要な一つは、一見異なると思える二つのことがらの中に、共通するものを見つけるセンスです。これは、数学の勉強、いや研究者になっても必要なものだと思います。

うちの子が算数から「卒業」したら、本にでもしたいなと考えています。

3.同じような問題意識から書かれたと思われる本に、前掲の小島寛之「算数の発想」があります。

同書は、逆説的に、問題を普遍的な手法(例えば方程式)で解くのではなく、算数の個別の解法(つるかめ算などですね)で解くことの意義を強調します。算数の考え方が、現代の数学やその他の学問に、活かされているのだと主張します。実例もたくさん挙げられていて、説得力があります。著者は、東大の数学科を出た数理経済学者であり、社会科学の応用例もいっぱいあります。

また、数学を勉強したくなってきました。

4.同書には、具体例が豊富に示されているのですが、同じ観点からは、真っ先に取り上げられるであろう、図形の問題の発展例が書かれていません。

デカルトによる数直線の発見や、複素数への広がり、量子論、宇宙論などなど、絞り切れないほど、あるはずです。

読者に課せられた「応用問題」なのでしょうか。