2014.03.30

大塚 嘉一

杉田宗久著「裁判員裁判の理論と実践」を読む

1.杉田宗久元判事が、平成25年12月25日にお亡くなりになったことを、知りました。

同判事には、私が、昭和61年から62年にかけて、福岡地方裁判所で司法修習をしたおり、同裁判所刑事部で、お世話になりました。

一般の方には、検事の求刑を上回る刑を言い渡す、ということで有名になっていたかもしれません。量刑相場といって、検事の求刑に七掛け、八掛けの刑を言い渡すのが通常とされる刑事裁判にあって、その量刑感覚が話題になったものです。

小室哲哉に執行猶予の刑を言い渡したのも彼です。被害賠償がなされていたとはいえ、被害金額が高額であったため、普通であれば実刑となってもおかしくない事案でした。

2.法曹仲間の間では、彼の著書「裁判員裁判の理論と実践」が、注目を浴びていました。裁判員裁判に古くから関わった彼ならではの、鋭い洞察に基づく理論的主張と、実際の彼の実践する審理について詳しく書かれています。

ことに、裁判員裁判において、犯罪事実の認定と量刑の審理を分けるべきという主張は、もっともであり、彼の実践が注目されていました。

同書には、量刑の審理についても、詳しい記述があります。ただし、議論の範囲は、立証責任など、学術的な問題に厳しく限定されています。

3.福岡地裁時代の杉田さんには、早稲田出身者らしく、ガハハと笑ってバンカラを装っていたことが記憶に残っています。法曹には、東京大学、中央大学の出身者が多数派であって、早稲田大学出身者はそれほど多くはなかった時代の話です。

ご本を読んで、緻密な思考をなさっていたことを、改めて認識しました。

福岡の裁判所は、お堀に囲まれた城址にあります。ときに蓮の花の咲く堀に架かった橋を渡って当庁するのは、気持ちのいいものでした。

判事室で、裁判官から、和気あいあいとした雰囲気の中、経験談を伺ったり、議論したりするのは、後に弁護士となる私にとっても、いい経験となりました。

4.福岡地裁の修習時代、杉田さんと同時期にお世話になった裁判官に、村瀬均判事がおいでです。同判事は、現在、東京高等裁判所の刑事部長です。今まで、3回、一審の裁判員裁判の死刑判決を、無期懲役に変更したことがあります。判決書を読んでみるのですが、死刑に関する永山事件の基準を超える思考が見えてきません。

村瀬判事の論文なり、著書があれば、是非読んでみたいものだと思います。

和気あいあいと、杉田さん、村瀬さんから、また教えを乞うことができたら、どんなに幸せか。