2011.04.15

大塚 嘉一

東日本大震災とドナルドキーン教授

 今年(平成23年)3月11日の地震、津波そして原発事故に対する日本の対応について、国際的な評価として、暴動などもなく日本人の団体としての連帯感に感嘆するという声が多く聞こえました。

確かに、まず自己主張を抑制し、紛争を避け、共同体の秩序を考慮することが、日本人の習い性となっているかのようです。しかし、それは、個人の責任を曖昧にし、個人を抑圧する装置となっているかもしれないのです。

池上英子は、The Taming of The Samurai(邦訳「名誉と順応」)で、中世及び戦国時代の武士は、強烈な自己主張を常とし、それは形を変えて江戸時代を生き延び、明治維新につながったと主張します。

ドナルド・キーン教授が今回の東日本大震災を機に、4月15日、日本人との連帯のために、日本に帰化したい旨を発表したそうです。これからは、全世界から日本が非難される展開も予想される中、勇気ある行動だと思います。敢えて日本人になろうという教授の個人主義は、アメリカ人に由来する性格かもしれませんし、情緒的には既に充分日本人であるのかもしれません。しかし、池上の著書にも明らかなように、かつての日本の武士は確実に、そのような個人主義を持っていたし、現代の日本人も、もしかしたらそうなのかもしれません。

今、日本の個人主義が、世界を舞台に、試されているのです。日本人の一人ひとりが、その環境と才能を利用して能力を最大限発揮することが求められています。

この日本の歴史始まって以来の最大の危機のときに、日本人と一緒になろうという教授の志に対し尊敬と感謝の意を表したいと思います。その報を聞いたあと、トイレで一人になると、涙が流れてくるのを止めることができなくなりました。教授にお伝えしたい。嗚咽を外にもらすまいと頑張ったトイレは、日本中にいっぱいあるはずですよ、と。