2020.05.09

大塚 嘉一

速水融「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争」(2006)を読む

1.速水融(はやみあきら)先生は、歴史人口学のパイオニア。日本が世界に誇る学者である。統計学を駆使して、多くの成果を挙げてきた。啓蒙書やマスコミで大活躍の磯田道史先生の学問上の師匠。

先生の一番の功績は、「勤勉革命」(industrious revolution)という考えを提唱し、広めたことだと思う。「産業革命」(industrial revolution)は知ってるけど、「勤勉革命」って何?という方に少し説明すると、それまで苦痛であった労働が、歴史上のある時点で、労働が報われるものであり、尊いものであると人々が認識することになることを言う。直ちに、マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を思い起こさずにはいない。

2.本書は、一般に「スペイン風邪」と呼ばれる、1918(大正7)年に発生し、世界中に広まった新型インフルエンザについての本である。

膨大な資料を駆使して、編まれている。

当時は、ウイルスについての知識もなく、対策としては、隔離しかなかった。

現代では、科学も発達し、ウイルスの構造も明らかにされ、その治療法やワクチンも世界中の学者が研究に取り組んでいるはずだ。

世界中の専門家が、英知を結集して、この困難を乗り越えたいものだ。医学、感染症学、経済学などなど、学問の壁を越えた専門家、学者の協力がいまこそ求められている。

それこそ、速水先生のやってきたことだ。2019年12月4日、お亡くなりになった先生の恩に報いるためにも。