2010.06.30

大塚 嘉一

銃・病原菌・鉄

1.ジャレド・ダイアモンドの著書です。現在、世界中を席巻している西洋文明ですが、何故、そのような高度な文明を築いたのがヨーロッパであって、他の国、民族でないのかという疑問に対して、その答えを主として地形などの特殊性に求め、決してヨーロッパ人が民族的に優れていたからではない、と説きます。

日本の読者は、直ちに、梅棹忠夫の「文明の生態史観」を思い出すことでしょう。

あるいは、ジョセフ・ニーダムの「中国の科学と文明」でしょうか。

2.ダイアモンドのこの本は、実例も豊富で、なるほどと納得させられます。しかし、それだけではないだろう、とも思わせられます。

ニーダムは、西洋の大航海時代までは、中国の方が文明が進んでいたこと、その後、西洋文明がこれを凌駕したことを、その浩瀚な書物でもって、明らかにしました。そして、中国の停滞の原因を、国の意思決定をする独裁者の存在に求めます。これに対して、ヨーロッパの躍進の原因を、創意に富む個人の競争にあるとします。

3.ダイアモンドの説に欠けているのは、この人間の個人個人の力ではないでしょうか。

もっとも、よく読むと、「銃・病原菌・鉄」中にも、「歴史のワイルドカード」として、歴史を変える力を個人に認めている箇所があります。

私は、ダイアモンドの著書から汲み取るべきは、この個人の創意の重要性だと思います。

あたかも、リチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子」から読み解くべき教訓が、人間は遺伝子の乗り物であるという表向きの主張ではなく、人間は、その遺伝子に反逆することができるのだという点にあるのと同じです。