2014.02.20

大塚 嘉一

STAP細胞と変わり者

1.先月(平成26年1月)末、動物の細胞を簡単な手法で初期化することに成功した、それをSTAP(Stimulus – Triggered Acquisition of Pluripotency)細胞と名づけたとのニュースに接したとき、私は、また与太話かよ、エイプリルフールでもないのに、と不機嫌になりました。しかしその後、natureのウェッブ・サイトに掲載されているのを確認し、本当にびっくりしました。21世紀になって、こんな大発見があるなんて。

正直に言うと、今でも、本当かなと疑う気持ちがあります。動物の細胞が、外部からの刺激だけで万能細胞になることはない、というのは常識ですから。もとい、常識でしたから。

2.STAP細胞発見の功労者は、理化学研究所の小保方晴子さん。30歳と、とてもお若い方。割烹着を着て実験するなど、ちょっと変な人。最初の発見から、今回の発表まで約5年間、周囲の不理解と戦ってきたという。Natureからは、何百年の細胞生物学を愚弄するものとまで酷評されたこともあったという。その間、自説を曲げなかった、相当の変り者。

小保方さんの今回の発表は、実験結果の報告であって、理論的根拠等には触れられていないようです。また、人間の医療に、どの程度貢献するものかも、まだあきらかではありません。

さて、彼女は、ノーベル賞を受賞するでしょうか。

彼女の研究スタイルは、論理を重視するというよりも、現場の研究結果からインスピレーションを得るというものらしい。思い起こすのは、バーバラ・マクリントックです。アメリカの植物学者。ずっと、自分のトウモロコシ畑で実験を続けました。1983年に、動く遺伝子(トランスポゾン)の研究が認められて、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。相当昔からその着想を得ており、発表もしていたのですが、当時の常識からあまりにかけ離れていたため、評価されることなく、不遇の時代を過ごしていたところ、その後のDNAの発見などで、理論的根拠も明らかになるなどして、受賞となりました。相当、気難しい、変わり者であったと言われています。ノーベル賞の受賞を聞いた彼女は、「ああ、そう」と言って、普段の仕事場のトウモロコシ畑に行ってしまったそうです。

久保方さんが、ノーベル賞を受賞するとしたら、今回の発見がある程度、再生医療等に役立つことが分かり、その理論的根拠も明らかにされたとき、その理論を提唱した人と共同受賞という形でしょうか。

3.マクリントックと言い、小保方さんと言い、相当の変わり者です。

人間の脳味噌には、肥沃な土壌が(あるいは荒野が。)詰まっています。変わり者の頭脳は、いろいろな可能性を孕んでいます。想像力は、創造力なのです。

変わり者に寛大な、大事にする社会を築きたいものです。それは、その社会の可能性を大きくするからです。

一国の資源は、領土や地下資源だけではありません。人材も、大きな資源に間違いありません。多くの人が協力できる、というのも、その国の強みです。それだけではなく、少数の変わり者を大事に育てる、というのも、大切な戦略です。

教育の持つ意味は、大きい。変な子、と排除するのではなく、彼、彼女の独創性を伸ばす教育をしてあげたい。

マクリントックには、少数ながら彼女のよき理解者がいたことが知られています。小保方さんも、そのような理解者に恵まれたものと想像します。

4.憚りながら、この私も、死刑問題や憲法9条に関しては、日弁連や埼玉弁護士会と違うことを言う、変り者扱いをされています。変り者度数というか係数というか、では、小物ではありますが。

今回のSTAP細胞の件で、私は、このまま弁護士会の変わり者で行こう、と改めて決意しました。

小保方さんが、ノーベル賞受賞の報を受けたとき、「ああ、そう」と言ったなり、割烹着を着て実験室に行ってしまう日が来るのを、楽しみに待ちながら。